
「最近、子供のむし歯が本当に減った」という話を耳にすることが増えました。
一方で、「これからはむし歯よりも歯周病のケアが大切だ」という言説も一般的になっています。
確かに、統計データを見れば子供のむし歯が激減しているのは事実です。
しかし、歯科現場のリアルな視点から見ると、この認識には「ある落とし穴」が隠されています。実は、巷で囁かれている「むし歯は過去の病気」という認識は、ある意味では正しく、ある意味では不正解です。
実は今、働き盛りからシニア世代にかけての「大人のむし歯」は、決して減っているわけではなく、むしろ新たなリスクとして浮上しています。しかもその多くは、自覚症状のないまま進行するのです。
80年代から始まった「フッ素革命」の恩恵
まず、日本の公衆衛生における大きな成功例を振り返りましょう。
現在、20代後半くらいまでの世代では、目に見えてむし歯が減っています。
この最大の要因は、1980年代以降における「フッ化物入り歯磨き粉」の普及と、学校検診などでの予防意識の高まりです。
かつては「子供の口を開ければ必ず数本のむし歯がある」という時代もありましたが、市販される歯磨き粉のほとんどにフッ素が配合されるようになり、家庭でのセルフケアの質が劇的に向上しました。この「フッ素革命」によって、若年層の口腔環境はかつてないほど良好に保たれています。
なぜ50代後半以降で「むし歯」が増えているのか
しかし、視点を50代後半以降に向けると、状況は一変します。
統計上、この世代ではむし歯に冒されているケースが減っていないばかりか、むしろ増加傾向にあります。
これには、皮肉にも「自分の歯が残るようになった」という喜ばしい背景が関係しています。
「8020運動(80歳で20本の歯を残そう)」の浸透により、高齢になっても多くの歯を維持する人が増えました。
しかし、歯が残ればその分、むし歯になるリスクも残ります。特に大人特有のむし歯には、以下の2つの厄介な特徴があります。
- 根面う蝕(こんめんうしょく)
加齢や歯周病によって歯ぐきが下がり、露出した歯の根元(象牙質)はエナメル質よりも弱く、非常にむし歯になりやすい部位です。
- 二次カリエス
過去に治療した詰め物や被せ物の隙間から、再びむし歯が進行するケースです。神経を取っている歯の場合、痛みを感じにくいため、気づいた時には手遅れになっていることも少なくありません。
「昔治したから大丈夫」という油断が、大人世代の歯を失う最大の原因となっているのです。
「痛くないから放置」という3割の現実
もう一つ、見逃せない事実があります。現在、未処置のむし歯を抱えている日本人は、全世代を通じておよそ3割にのぼると言われています。
なぜ、これほど多くの人がむし歯を放置してしまうのでしょうか。
その理由は、大人のむし歯の多くが「急激な痛みを伴わない」という点にあります。
じわじわと進行し、違和感はあるものの日常生活に支障がないため、つい歯科医院への受診を後回しにしてしまうのです。
しかし、大野歯科クリニックが掲げる「ウェルビーイング(心と身体の健康)」の観点からすれば、これは非常に危うい状態です。
お口の健康は全身の健康の入り口です。放置されたむし歯は、単に歯を失うだけでなく、咀嚼機能の低下を通じて全身の活力を削ぎ、将来の健康寿命にまで影響を及ぼします。
予防歯科が提案する「新しい通い方」
これからの歯科医院は、「痛くなってから行く場所」ではなく、「大切な歯を守り続けるパートナー」であるべきだと考えています。
当院のように歯科衛生士が担当制で寄り添い、定期的なメインテナンスを行うことで、自分では気づけない「初期のむし歯」や「被せ物の劣化」を早期に発見できます。
特に当院には、インストラクター資格や栄養士資格を持つ専門スタッフが在籍しています。
ただ汚れを落とすだけでなく、なぜむし歯になったのかという原因を一緒に考え、生活習慣を含めた包括的なアドバイスを行うことが可能です。
子供の頃にむし歯がなかったからといって、大人になってからも安心というわけではありません。
これからの長い人生を自分の歯で美味しく食べ、笑って過ごすために、今の自分の状態を「しっかり知る」ことから始めてみませんか。
代表的なエビデンス
現代日本の歯科事情を裏付ける科学的な根拠として、厚生労働省の「歯科疾患実態調査(令和4年)」および文部科学省の「学校保健統計調査」のデータが挙げられます。
- 若年層のむし歯激減
12歳児の平均むし歯本数(DMFT指数)は、1980年代の約5本から、令和4年度には0.63本まで減少しました。
これはフッ化物配合歯磨剤の普及(普及率90%以上)と相関しています。
- 高齢層のむし歯保有数の増加
8020運動の成果により、80歳で20本以上の歯を持つ者の割合は51.2%(令和4年)と半数を超えました。
しかし、それに伴い55歳以上の層では「現在歯のうち、むし歯(処置済含む)を持つ本数」が以前の調査よりも増加しており、特に歯の根元がむしばまれる「根面う蝕」の罹患率が高まっています。
- 未処置歯の放置率
同調査によれば、成人の約3割が未処置のむし歯を保有していると報告されており、特に働き盛り世代において「痛みがないために受診を控える」傾向が、口腔健康格差を生む要因として指摘されています。
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